痛みって厄介なものですが、その中でもCRPSというものをご存知ですか?
肩手症候群やRSDなど似たような症状を呈するものがいくつかありますが、それらをまとめてCRPSと呼ぶようになっています。
特別なイベントがないのにも関わらず、激しい痛みを訴えたりと、臨床で担当すると何をどうしていいのか分からず焦ってしまいそうですが、まずは基本的な病態をきっちり抑えて、その上でリハビリ戦略を考えましょう。
今回は、CRPSの基本的病態とリハビリのポイントについて簡単に解説しています。
複雑性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)
骨折、捻挫、打撲などの外傷をきっかけに、慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発汗などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群とされています。
2005年に国際疼痛学会(IASP)から以下の診断基準が出ています。
1.きっかけとなった事故や怪我などのイベントに不釣り合いな持続性の疼痛 2.以下4項目のうち3項目に少なくとも1つの症状があること ・感覚異常:感覚過敏、触れた程度での異常な痛み ・血管運動異常:皮膚温の左右差、皮膚色の変化、皮膚色の左右差 ・発汗異常/浮腫:浮腫、発汗の変化、発汗の左右差 ・運動異常・萎縮:可動域の低下、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)、萎縮性変化(毛、爪、皮膚) 3.評価時に以下の2つ以上の項目に少なくとも1つの徴候があること ・感覚異常:疼痛過敏(針で刺すことに対して)、感覚異常(軽い接触、温冷刺激、体部の圧刺激、関節運動に対して) ・血管運動異常:皮膚温の左右差(1℃超え)、皮膚色の変化、皮膚色の左右差 ・発汗異常/浮腫:浮腫、発汗の変化、発汗の左右差 ・運動異常/委縮:可動域の低下、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)、委縮性変化(毛、爪、皮膚)
上記の症状と特徴をよりよく説明する他の診断がないこと。
引用:国際疼痛学会
つまり、
明確な原因となるものがない痛みや感覚異常のことを総称してCRPSと呼んでいます。
同じようなものに、Reflex sympathetic dystrophy(以下、RSD)がありますが、これは交感神経の関与を示唆するものですが、全ての症例に関して委縮性の特徴を伴うわけではないということから、RSDとカウザルギーがCRPSにまとめられました。
CRPSはtypeⅠとtypeⅡに分けられ、typeⅠがRSD、typeⅡがカウザルギーとされています。
以下にそれぞれについて解説します。
CRPS typeⅠ:RSD(=反射性交感神経性ジストロフィー)
これは神経損傷を伴わないタイプで定義は以下のようにされています。
・侵害的な出来事、軽微な外傷などの後に発生し、単一の末梢神経の分布領域に限局せずに拡がる、明らかに刺激となった出来事と不釣合いな強い症状を示す症候群。 ・疼痛部位あるいはアロディニア・痛覚過敏領域において、経過中に、浮腫、皮膚血流の変化、発汗異常が伴われる。
typeⅡと決定的に違う点は、神経損傷を伴わないという点。
神経損傷を伴っていれば、解剖学的神経支配領域に沿った領域に症状が出現しますが、typeⅠの定義によると、症状を呈するきっかけとなったイベントと症状が不釣合いであると示されています。
侵害刺激が持続することで起こる、神経可塑性の変化からもアロディニアのような痛覚過敏を引き起こします。
神経障害がなくても似たような症状を引き起こす場合もあるため、混同しないように鑑別することが重要となります。
主な症状としては以下の通り。
・痛みは灼熱痛、ズキズキ疼くような痛み、ナイフで切り裂かれたような痛みと表現されることが多い ・痛みは持続的で運動、熱、メカニカルストレスによって増強する ・皮膚の異常として、皮膚温の変化や皮膚色の変化あり ・局所の浮腫や腫脹を伴う場合あり ・発汗異常を認める場合あり ・運動機能障害がある(筋力低下、不随運動など) ・受傷後1ヶ月以内に症状が出現、多くは軽度で神経症状を伴わない
そして、CRPSの診断基準は以下の通り。
・発症の原因となるような侵害性の出来事、運動制限の原因の存在 ・刺激となる出来事に不釣り合いな持続性の疼痛、アロディニア、または痛覚過敏 ・痛みを感じる領域に、浮腫、皮膚血流の変化、または発汗異常の証拠が経過中にみられる ・この診断基準は、痛みや機能異常の程度を説明する他の条件がある場合は除外される
発症の原因となるイベントがあり、かつ、それに不釣り合いな疼痛や痛覚過敏があって、皮膚に変化が認められるものをCRPSとしています。
CRPS typeⅡ:カウザルギー
これは神経損傷を伴うタイプで、以下のように定義されています。
・1本の神経やその主要な分布の部分損傷後に起こる、通常手や足の領域の灼熱痛、アロディニア、痛覚過敏 ・末梢神経の急性外傷に続発する特殊な型の神経痛である
上で説明した通り、typeⅠと違う点は神経損傷があるということ。
神経損傷由来の疼痛や感覚障害、神経損傷に起因しない疼痛や感覚障害では、治療も違いますし、当然リハビリの戦略も変わりますので、ここは必ず抑えておきましょう。
主な症状としては以下の通り。
・感覚低下領域を中心とした持続性の灼熱痛、アロディニアなどの疼痛が主症状 ・神損傷に伴う感覚低下の領域を認める ・皮膚温の異常、浮腫や発汗異常などの症状を認める場合がある ・痛みは単一の神経の走行に沿わず、近位に拡大する ・四肢の神経の部分的損傷によって起こる
そして、カウザルギーの診断基準は以下の通り。
・神経損傷後に生じた持続的な疼痛、アロディニアや痛覚過敏で、それは必ずしも、損傷された神経の領域に限局するとは限らない ・痛みを感じる領域に、浮腫、皮膚血流の変化、発汗の異常が経過中に存在した
症状自体はtypeⅠとそれほど変わりないのですが、神経損傷を伴うイベントがあったかどうかが大きなポイントです。
CRPSに対するリハビリテーション
CRPSに対するリハビリとして、関節拘縮が進行しないようにROMexや運動療法などしようとするが、痛みが強くて積極的に進めることができないことが難点です。
かと言って、何もしないと痛みで動かなくなり、どんどん関節拘縮や筋力低下が進行し、ADLが低下、痛みもより感じやすくなるという悪循環に陥ります。
私が考えるポイントは以下の2つ。
・痛みがない動き、姿勢を見つける ・体幹と四肢の関係を考える
痛みがない動き、姿勢を見つける
痛みが強いとどうしてもセラピスト側も不安になって消極的な介入しかできません。 CRPSでなくても、誰しもこういった経験はあるのではないでしょうか?
そういった意味でも、まずは痛みがない状態を探してあげることが重要だと考えます。
セラピストとしても楽な姿勢が分かれば、この姿勢なら苦痛を与えないで済むなと思って安心できるし、対象者にとっても痛みが少なくなるので苦痛は少ないはずです。
姿勢で言うと、背臥位なのか、伏臥位なのか、側臥位なのか、それとも反対側を向いた側臥位なのか。 同じ背臥位でも、膝を立てた方が楽なのか、伸ばした方が楽なのか、バンザイした方が楽なのか、手を横へ広げた方が楽なのか。
などなど、とにかく色々試してみてください。
少しでも痛みが減る姿勢を見つけることができればしめたものです。
僕自身の経験では、色々試しているとどんな姿勢でも痛みが変わらないという方はおられません。
必ずその方にとっての楽な姿勢があるはずです。
楽な姿勢を見つけたら、そこから解剖学、運動学的に考え、膝を立てた方が楽ということは、股関節屈筋は緩んでいた方が楽なのか? 骨盤後傾、腰椎後弯した方が楽なのか?
バンザイした方が楽ということは、胸椎伸展位が楽なのか?大胸筋が伸びていた方が楽なのか?
そこまで考えたら、他の姿勢でも対象となる筋や関節を楽な姿勢と同じ状態へ近づけてみます。 それでも痛みが楽になるのであれば、実際に対象へアプローチしていけばいいですよね。
このように、楽な姿勢を見つける→機能解剖学的に考察→徒手的に操作しても痛みに変化が出るのか→実際にアプローチ、という流れです。
体幹と四肢の関係を考える
体幹は姿勢を保つ、動作の際に必ず働きます。
体幹の姿勢制御や動きがあることが前提で、四肢に動きが波及しますし、体幹のおかげで四肢が安定して動けるという側面もあります。
APAs(先行随伴性姿勢制御)という言葉があります。
例えば、ペンを持ち上げようと手を伸ばす数秒前に内側運動制御系が働き (この場合は肩や体幹)、実際に指でつまんでペンを持ち上げる外側運動制御系(この場合は手指)が働くというものです。
内側運動制御系は無意識下でのもの、外側運動制御系は意識的な運動制御と捉えられています。
実際にはペンを持とうと認知した段階から内側運動制御系は働いており、手指の動きのために肩や体幹筋で姿勢を安定させているわけです。
このことからも、四肢の運動のためには体幹による姿勢制御が必要で、それも意識的にガチガチに制御するというものではなく、無意識下でということがポイント。
もちろん、意識的にできることも重要で、例えば無意識下での運動だけなら意識的に体幹を反らしたりという動きはできないわけで、かと言って、指先に巧緻性を求められるような動きの状況で、腹筋に力を入れて、のけぞらないように注意して〜なんていちいち考えていると、肝心の指先の動きに集中できないですよね。
内側系と外側系のバランスが大事で、それらを柔軟に使い分けることのできる身体環境が重要となります。
というのは、極端に固まりすぎている部分があったり、極端に動きすぎている部分があったりすると、必ず局所に負担になっています。
これでは、上述したような内側系と外側系のバランスもうまく使い分けることも難しく、そもそも使い分けるような身体の環境が整っていないんですね。
シンプルですが、動いていない部分は動くように、動きすぎている部分は動きを抑える。 これが案外重要なポイントになります。
まとめ
・RSDとカウザルギーをまとめてCRPSと呼ぶ ・CRPSにはtypeⅠとtypeⅡがある ・typeⅠは神経損傷を伴わないもの、typeⅡは神経損傷を伴うもの ・痛みが和らぐポイントを見つけてあげる ・体幹と四肢の関係を考える
CRPSはまずタイプを把握しておくこと、医師の治療方針、治療内容も把握し、その上で関わることが重要です。
何でもリハビリだけで良くなるわけではないので、医師と協力しつつ何ができるかを考えることが必要です。
その中で今回ご紹介した内容が参考になれば幸いです。
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