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拘縮肩に対する解説とアプローチの全貌




拘縮肩とは




拘縮は、関節構成体以外の皮膚、筋肉、神経などの軟部組織の変化とし、関節端、関節軟骨、関節包、靭帯などの関節構成体そのものの変化を強直と定義していたり、関節包や靭帯を含めた軟部組織の他動的な運動制限全般を拘縮とし、関節相対面の癒着によって他動的に関節が動かなくなった状態のみを強直と分類するものもあり、定義は諸家により異なります。


例え軟部組織であっても、不動が長期化すると二次的に関節構成体そのものにも病変をきたし癒着や骨性強直へと進展します。


これを踏まえるとセラピストは可及的速やかに病理的変性を見極めアプローチ方法を選択して拘縮の改善に取り組む必要があります。


肩関節は人体の中でも最も自由度が高く、疼痛と拘縮によって日常生活動作は顕著に障害されます。

拘縮肩は、疼痛痙縮期、拘縮期、回復期と病期が分類され、各病期に応じた治療内容を選択する必要があります。



PETRA(Pointwise encoding time reduction with radial acquisition)を用いて拘縮肩患者の画像的定量評価を行った研究では、有痛群と無痛群に分け腋窩腔での関節包の厚みを計測したところ、有痛群で有意に関節包の肥厚を認めたと報告しています。



ラットによる研究ですが、不動状態が続くと滑膜における脂肪細胞の萎縮・消失が認められ、その間を埋めるようにコラーゲンの増生が認められます。これは線維化の発生を意味しており、しかも不動期間の延長に伴って顕著になる傾向にあったとのことです。



つまり、関節包でのコラーゲン増生に起因した線維化の発生・進行が拘縮の病態に関与することが示唆されていると報告しています。


病期別に必要な知識


1.疼痛痙縮期

肩関節において、疼痛と密接に関与する組織は腱板、肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯です。





基本的に炎症が強い時期となるので運動療法自体は適応外となりますが、これらの組織への圧力・張力刺激を回避することがこの後も疼痛管理および運動療法における注意点となります。


臨床上、この時期にはすでに疼痛回避肢位を自然と構築していることが多いので、問診、姿勢観察などから肩甲骨と上腕骨のアライメントおよび疼痛が生じない運動範囲や負荷を評価します。



疼痛の要因としては、骨内圧の上昇があることが報告されており、アライメント以外にも発症時期に応じた炎症症状(腫脹・熱感・疼痛)および筋攣縮によって生じる内圧上昇にも配慮する必要があります。

理学療法としては、肩甲骨と上腕骨との位置関係に配慮しクッションなどを利用した安静肢位と胸鎖関節、肩鎖関節の不動に対する拘縮予防や肩・肩甲帯周囲筋の筋攣縮へのリラクゼーションを図る必要があります。



特に拘縮肩症例では上肢下垂位での外旋可動域制限が顕著に生じやすいです。そのため、烏口上腕靭帯を含めた内旋筋群の短縮を予防する関節可動域練習を行う必要があります。



2.拘縮期

この時期では、疼痛は軽減し、関節可動域制限が主たる問題点となります。よって、積極的な運動療法を展開していく必要があります。


○拘縮期に行う可動域練習の目的

外旋可動域改善のための烏口上腕靭帯などの上前方支持機構へのストレッチング


後下方軟部組織の拘縮による骨頭のobligate translation改善のためのストレッチング・下方軟部組織(広背筋、大円筋、肩甲下筋)・後方軟部組織(上腕三頭筋長頭)・後下方軟部組織(棘下筋、小円筋)






胸鎖関節を中心とした鎖骨の挙上・後退・下制運動(胸鎖関節を軸に矢状軸での挙上・下制、垂直軸での前方突出・後退、水平軸での後方回旋)


肩鎖関節を中心とした肩甲骨の外旋(内転)可動性改善(肩甲骨の運動は肩鎖関節を軸に矢状軸での上方・下方回旋、垂直軸での内旋・外旋、水平軸での前傾・後傾が生じます)


上記を他動運動から自動運動へ展開していきます。

しかし、拘縮により上肢挙上時に上腕骨頭の上昇化や肩甲帯の挙上動作が過剰に認められます。

これらの筋活動を抑制しつつ、腱板機能および肩甲帯周囲筋群の筋活動を再学習する必要があります。

再学習には、抗重力位ではもちろん難しい動作となりますので側臥位などの除重力位で行うのがおすすめです。



腱板は側臥位での肩関節屈曲角度の変化に伴うスイッチ機能の再学習が期待できると言われています。

このスイッチ機能についてお話しすると、側臥位では僧帽筋上部線維は低い筋活動を示し、棘上筋の筋活動は肩関節屈曲60°以降漸減し、棘下筋の筋活動は屈曲60°以降漸増するという活動交代を示すと報告されています。



これは、健常者の肩関節屈曲パターンにも見られる現象と一致しており、側臥位でも正常な肩関節の運動パターンを再学習することができます。

また、除重力で上肢の運動方向や角度に配慮することで抑制すべき筋と促通すべき筋への選択的なアプローチが期待できると言われています。


自動介助→自動→抵抗運動へと段階的に実施し、側臥位から座位へと展開してい苦ことで正常な運動パターンを学習し、腱板機能不全を予防して運動機能を側臥位から座位・立位へと以降していくことが可能となります。


拘縮肩は単独での発症だけでなく、腱板損傷との合併もあり得ます。拘縮肩自体も時間のかかる疾患ではあるので医師との密接なコミュニケーションや患者への説明・教育が非常に重要になってくると思いますのでなかなか治療が進まないと思ったら積極的に周囲のセラピストや医師と相談するようにしてくださいね。



まとめ

拘縮肩は、疼痛痙縮期、拘縮期、回復期と病期が分類され、各病期に応じた治療内容を選択する必要がある。




拘縮期では、疼痛は軽減していくので、積極的な運動療法を展開する必要がある

代償動作を抑制しつつ、正常な自動運動パターンを学習する目的でまず側臥位での挙上練習がおすすめです。



参考文献

1)福島 秀晃、三浦 雄一郎:拘縮肩へのアプローチに対する理論的背景、関西理学、14、pp17-25、2014

2)沖田 実:関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略、理学療法学、pp523-530、第41巻、第8号、2014

3)篠崎晋久他:関節包を描出可能にしたMRI PETRAによる拘縮肩の評価、pp404-406、肩関節、42(2)、2018


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