失行症に対するリハビリテーションについて、どのように進めていけばよいか質問がよくあります。
脳卒中ガイドライン2021では、失行に対して「戦略的訓練や身振りを用いた訓練を行うことは妥当である(推奨度B)」と記載されています。
では、「戦略的訓練」とはどのような内容なのか。今回はこの点について簡単に説明したいと思います。
戦略的訓練(strategy training)とは、ADL機能を向上させることにより、患者の自立性を最大限に高めることを目的とし、van Heugten(1998)らが開発したプログラムです。
ポイントになるのは、ADLなど活動一つ一つの行為は以下の3つのフェーズで構成されているという考えです。
①適切な行動計画と対象物を選択(活動の開始)
➁選択した計画を適切に実行(活動の実行)
③その結果を評価し、必要に応じてその活動を制御、修正する(活
動の制御と修正)
すなわち、
・活動の開始に問題が生じているのか
・実行の時に問題が生じてるのか
・活動中にその活動が正しいのかを自身で判断し必要に応じ修正したり、他の活動にスムーズに移れるのか
活動をこのような3つのフェーズに分けて観察し、対象者がどのフェーズで問題が生じているのか評価する必要があるということになります。
戦略的訓練では、上記3フェーズで問題が生じている過程に応じて介入をします。
具体的な介入としては、指示、援助、フィードバックに焦点を当てます。
例えば、活動の開始フェーズで問題が生じている場合というのは、道具を認識できない、課題に必要な物品を選べない、活動が始まらないといった状況になります。
この時に優先される介入としては指示になります。
指示方法としては言語指示や絵を使った視覚的な指示などが挙げられます。
活動の実行フェーズに問題が生じている場合というのは、道具を選択するが上手く使えない、動きが滑らかではない、などの状況です。
この時は、援助が優先される戦略になります。ハンドリングなども適切に使えると効果的なのかもしれません。
最後の活動の制御と修正フェーズに問題が生じている場合というのは、例えば洗顔する場面において、石鹸で顔を洗い始めることができるが(活動の開始は可能だが)、水を出さないままでいる。などの場面が挙げられます。
本来であれば、自分の実行している行動が、事前に立てた行動計画と一致しているかどうかを判断(制御)し、必要に応じて修正できる必要があります。
この時は、フィードバックが優先される戦略になります。この段階は、視覚的な注意力が求められるため、言語や視覚的なフィードバックから本人へ気付きを与えて修正できるよう促すことが必要とされています。
実際の臨床では、失語症の合併などもあり、そもそも指示やフィードバックなどが困難なケースも少なくありません。ゆえに難渋するケースが多いかと思います。
ただ、観察ポイントを3つに分類することで介入の戦略を立てやすくなるので、知っておくと有効かと思います。
<参考>
van Heugten, C. M., Dekker, J., Deelman, B. G., Van Dijk, A. J., & Stehmann-Saris, J. C. (1998). Outcome of strategy training in stroke patients with apraxia: a phase II study. Clinical rehabilitation, 12(4), 294-303.
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